東京都トラック協会練馬支部と練馬区が共同構築した、既存トラックを「簡易給水車」として活用する官民連携の防災スキーム『練馬区方式』の解説。物流のプロが提案する、災害時に水を運び・確実に受け取るための効率的な輸送・受援体制の全体イメージ。

【事例】官民連携で実現する「給水支援」の物流モデル給水車不足の代替手段「練馬区方式」による簡易給水車と受援体制

この記事の概要
災害対策において、備蓄量の確保と同じく重要なのが「有事の運用設計」です。
本コラムでは、東京都トラック協会練馬支部と練馬区が実現した、既存トラックを「簡易給水車」として活用する『練馬区方式』の成功事例を詳解します。
単なる水の確保に留まらず、物流の専門知見を活かした「輸送戦略」と、現場の「受援体制(受け取り側の仕組み)」の重要性について、実証事例をもとに紹介します。
→トラック+車両積載タンクで簡易給水車を実現した事例を見る

目次(INDEX)
1. 地域防災の課題:公助の限界と「共助」の体制構築が急務な理由
2. 物流依存社会の死角:災害時に「運ぶ」と「受け取る」を一体設計する重要性
3. 【事例】トラック+ホリフトウォーターで構築する「練馬区方式」の全容
4. 現場での実証:練馬区防災フェスタで見えた「優先順位」と「機動力」
5. 災害関連死を防ぐために:初動のスピードが避難者の命を守る
6. 受援体制の確立:給水車の巡回効率を最大化する「受け取り側」の工夫
7. 現場の負担を軽減:女性でも5分で組み立て可能な「ホリフトウォーター」
8. 結びに:行政・企業・住民が担う「共通の責任」としての地域防災

1. 地域防災の課題:公助の限界と「共助」の体制構築が急務な理由

近年、災害が激甚化・広域化する中で、地域社会が直面する防災課題は多様化しています。本コラムでは、現代社会における災害対策を考える上で重要な三つのキーワードである「官民合同」「自助・公助・共助」「救援物資の輸送」に焦点を当て、その意義と課題について解説します。

官民合同、自助・公助・共助の重要性

自治体や市区町村は、災害時には第一次防災機関として「公助」の役割を担い、災害対策本部の設置、情報発信、避難誘導、生活支援など多岐にわたる業務を行います。しかし、業務内容の複雑さや膨大さに対し、防災担当職員の数は十分とは言えないのが現状です。

自治体防災担当部署の専任職員数に関する統計(2014年調査)。3人以上の配置は約45%に留まり、約55%の自治体で専任体制が不十分であることを示す帯グラフ。公助の限界と官民連携・共助の必然性を裏付けるデータ図解。静岡大学防災総合センター・牛山素行教授らが実施した全国自治体調査(2014年)によると、防災担当部署に専任職員が3人以上配置されている自治体は44.7%にとどまり、半数以上の自治体では専任職員が1~2人、もしくは不在であるという実態が明らかになっています。
(出典:静岡大学防災総合センター牛山研究室「市区町村の防災に関するアンケート 緊急集計速報」

このような限られた行政リソースの中で公助を最大限に機能させるためには、民間企業や地域団体と連携する官民合同の体制構築が不可欠です。行政による公助に加え、住民一人ひとりの「自助」、地域や民間団体による「共助」を組み合わせることで、地域全体の防災力を底上げすることができます。
そして、こうした官民連携が特に求められる分野の一つが「物流支援」です。

2. 物流依存社会の死角:災害時に「運ぶ」と「受け取る」を一体設計する重要性

現代の日本社会は、水や食料、医薬品、エネルギーなどを外部供給に大きく依存する過去に例のない「物流依存社会」です。平時には高度に最適化された物流ネットワークが生活を支えていますが、非常時における大規模・長距離の救援物資輸送と、被災地での受け入れ体制については、いまだ発展途上の側面があります。

災害時における救援物資の「輸送(運ぶ)」と「受援(受け取る)」の仕組みを一体設計する重要性の図解。東日本大震災での物流混乱の教訓から、給水車などの救援物資を受け入れる側の体制確立が不可欠東日本大震災では、この「物流依存社会」の弱点が顕在化しました。輸送ルートの途絶や受け入れ体制の未整備により、救援物資が届いても配分できない事態が各地で発生しました。一方で、民間事業者や地域住民が連携して物資の仕分け・分配を行った地域では、比較的円滑な供給が実現しました。
この経験は、災害時の物資供給には「どのように運ぶか(輸送)」と同時に、「どのように受け取るか(受援)」を一体で設計することの重要性を示しています。

3.【事例】トラック+ホリフトウォーターで構築する「練馬区方式」の全容

こうした課題に対し、民間団体による先進的な取り組みが進められています。その一例が、(一社)東京都トラック協会練馬支部による「練馬区方式」の給水支援体制の構築です。

トラック+車両積載タンクで簡易給水車を実現した「練馬区方式」

1,000リットル容量の組み立て式給水タンク「ホリフトウォーター」をトラックの荷台に積載し、緊急時の給水支援を行うスキーム。物流の専門家が推奨する、迅速な設置と安定した水輸送の両立例。同支部は練馬区と防災協定を締結し、災害時の緊急支援物資備蓄倉庫の再配備業務を受託しています。区内22か所に分散する備蓄物資について、物流の専門家として整理・均等配備の助言および実作業を行ってきました。
さらに特徴的なのが、トラックの機動力を活かした迅速な給水支援の仕組みづくりです。
輸送に耐える強度を持つ組み立て式給水タンクをトラック荷台に積載することで、「簡易給水車」として活用できる体制を整備しています。
この取り組みの背景について、(一社)東京都トラック協会練馬支部は次のように述べています。

(一社)東京都トラック協会練馬支部 コメント①
 「過去の救援物資供給は、具体性や実体験に基づく検討が十分とは言えない状況でした。そこで東日本大震災での『失敗』を練馬区と共有し、『このままでは問題がある』という共通認識を持つことから取り組みを始めました。20か所以上ある物資の保管場所は何度も見直し、有事にいかにスムーズな輸送ができるかをテーマに再検討しました。輸送拠点についても、レイアウトや搬入・保管・取り出しの手順を繰り返し検証し、実際の輸送拠点を使用したシミュレーションを実施しました。その結果、机上では正しいと思われていた方法が現場では機能しないことも判明し、より現実性のある防災マニュアルが整備されつつあります。」

このような検証を重ねる中で、発災直後の初動において「水」をどのように運び、どう供給するかは、最優先で設計すべきテーマとして位置づけられてきました。そこで活用されているのが、組み立て式給水タンク「ホリフトウォーター」です。

4. 現場での実証:練馬区防災フェスタで見えた「優先順位」と「機動力」

2025年8月31日、練馬区主催の「防災フェスタ」にて、(一社)東京都トラック協会練馬支部のブースでは、「車両積載タンク+トラック」を用いた給水実演を実施しました。
練馬区が備蓄する組み立て式給水タンク「ホリフトウォーター」をトラックに積載し、給水所で井戸水を注入し、会場まで運搬して、断水時を想定した「簡易給水車」による給水活動の実証が行われました。

2025年8月31日の練馬区防災フェスタで実施された、車両積載タンクとトラックを用いた給水デモンストレーション。井戸水を活用し、現場で迅速に給水活動を開始する実証訓練の様子。
車両積載タンク+トラック」を用いた給水実演
防災訓練にて、ホリフトウォーターから浄水器を通した清潔な飲料水を来場者の紙コップへ給水する様子。満水輸送に耐えるタンク強度と、災害時の安全な水供給の具体的事例。
来場者にタンクから紙コップへ給水した飲み水が提供

この実証を踏まえ、同支部は運用面での考え方を次のように述べています。

(一社)東京都トラック協会練馬支部 コメント②
 「少ない人数で大量の水を指定場所へ輸送するには、この方法が最適だと感じています。箱入りの備蓄水は、トラックまでの移動にも、輸送先での荷下ろしや配布にも、再び多くの人手を要します。今後はホリフトウォーターによる輸送を優先し、箱入り備蓄水の輸送は人手が集まってから行うなど、優先順位を付けた運用が望ましいと考えています。」

今年度は、新たに浄水器を通した飲用水としての提供にも挑戦し、来場者にタンクから紙コップへ給水した飲み水が提供されました。満水状態でも輸送に耐えるホリフトウォーターの強度と、トラック輸送による機動力が組み合わさることで、災害時にも地域に安全な飲み水を届ける仕組みが実現されています。

5. 二次被害を防ぐために:生命維持に不可欠な「水」確保のスピード感

避難所における衛生管理と災害関連死の防止に不可欠な水の供給。熊本地震のデータ等を背景とした、手洗い、調理、洗浄などの生活用水を大量かつ迅速に確保するための支援体制の意義。災害時における物資供給は、被災地の復旧・復興を支えるだけではなく、二次災害の防止や避難所の環境改善にもつながります。実際、災害関連死などの二次被害が一次被害を上回るケースも少なくありません。

たとえば、熊本地震では、地震による直接の犠牲者が50人であったのに対し、避難生活中の疲労や持病の悪化、エコノミークラス症候群などによる災害関連死が222人にのぼりました。この数字は、被災後の生活環境整備、特に衛生管理と健康維持の重要性を強く示しています。

なかでも生命の維持に不可欠なのが「水の供給」です。

飲料水の確保はもちろん、手洗いやうがい、調理、洗浄といった生活用水も含めると、大量の水を輸送・受け入れられる体制が必要になります。災害時には断水が数週間から数十日に及ぶ場合もあり、発災直後から長期的かつ優先的に水を確保できる仕組みが求められます。
ここで重要になるのが、発災直後の初動で「どれだけ早く水を届けられるか」という視点です。
この点について、(一社)東京都トラック協会練馬支部は都全体の課題として次のように述べています。

(一社)東京都トラック協会練馬支部 コメント③
「都内の多くの地域では、練馬区と同程度の防災体制にまだ至っていないことが課題だと感じています(練馬区も現在進行形です)。震災は日時を選ばず発生するため、初動では『いかに少ない人数でも目的を早期に果たせるか』が重要になります。水は、人が生き、行動するうえで欠かせないものです。準備をどれだけ迅速に行えるかが、救援活動を行う人々の負担だけでなく、避難してくる区民・都民の安心や混乱の回避に影響すると考えています。」

6. 受援体制の確立:給水車の巡回効率を最大化する「受け取り側」の工夫

給水車の巡回効率を最大化するための受援体制の確立。施設の駐車場等にホリフトウォーターを設置し、給水車から一括給水を受けることで、個別給水による足止めを防ぐ効率的な給水フロー。災害時の給水活動では、「水を運ぶ」だけでなく「水を受け取る仕組み」の整備が極めて重要です。給水車は1台数千万単位の購入コストがかかり、自治体が十分な台数を自前で確保することは困難です。そのため、多くの場合は他県から派遣が行われています。

また、限られた給水車を効率的に運用するためには、病院や介護施設などの重要拠点を優先的に巡回させ、1台ごとの給水活動を最大限に効率化する必要があります。

しかし、給水車が給水所まで水を届けても、大量の水を受け取り・貯留・分配できる仕組みが整っていなければ、給水車の蛇口からペットボトルや容器に一つずつ給水せざるを得ず、巡回に膨大な時間がかかってしまいます。これは近年の断水地域でも実際によく見られる光景であり、ここに「受け取る側(受援体制)」の課題があります。
この課題に対応するのが、組み立て式給水タンクです。

7. 現場の負担を軽減:女性でも5分で組み立て可能な「ホリフトウォーター」

軽量設計により、女性職員でも工具不要かつ5分程度で組み立て可能なホリフトウォーター。病院や介護施設など、多様な人材が活躍する現場で迅速な受援体制を構築できる製品特性の紹介。ホリフトウォーターは、1台あたり1,000リットルの容量を持ち、トラックに積載すれば簡易給水車として「水を運んで供給」できるほか、そのまま施設の駐車場や避難所に設置すれば、設置型の応急給水タンクとして「水を効率的に受け取り・一人ひとりに分配」することができます。
ホリフトウォーターは折り畳んで小さく保管でき、工具不要で組み立てが可能です。 軽量設計のため、女性でも容易に扱うことができ、慣れれば約5分で組み立て完了します。
そのため、女性職員が多い病院や介護施設でも導入しやすく、介護施設や学校法人、自治会などで導入されています。
関連記事:防災の女性参画

また防災分野における女性の参画を後押しする取り組みとしても注目されています。
【国際女性デー】防災分野の“男女格差” 製品開発で解消後押し(2024年3月8日)

8. 結びに:行政・企業・住民が担う「共通の責任」としての地域防災

官民連携地域の防災力を強化する組み立て式給水タンク以上、「官民合同」「自助・公助・共助」「救援物資の輸送」という、現代の防災において欠かせない三つのキーワードと、災害時に水を供給する民間団体による共助の仕組みづくりの事例をご紹介しました。

災害の被害規模は、災害そのものの大きさ(外力)だけでなく、被災した施設や人口・インフラの範囲(暴露量)、そして社会システムのあり方(脆弱性)によって左右されます。近年、気候変動などによる災害の激甚化によって外力は大きくなる一方で、高齢化や地域コミュニティの希薄化、物流依存の生活構造などにより脆弱性が高まっています。

そのような中で、(一社)東京都トラック協会練馬支部と練馬区の取り組みは、業界団体としての専門的知見とネットワークを活かし、行政との協働によって地域の防災力を強化する理想的な官民連携のモデルケースであると言えます。

自治体や市区町村は、「公助」の一部として、地域住民や民間団体による「共助の仕組みづくり」を積極的に支援し、地域の自主防災力を高めていくことが求められます。また、民間も受け身ではなく、地域の一員として自ら地域防災に参画し、行政との連携を深めながら継続的に支える姿勢が期待されます。

地域防災とは、行政や企業、住民のいずれかが単独で担うものではなく、そこで暮らすすべての人々の命と生活を守るための「共通の責任」です。本事例を契機として、他の自治体や業界団体にも同様の「民間防災リソース活用モデル」が広がり、地域の力を結集したより強靭で持続可能な防災社会が実現していくことを願っています。

基礎文献
牛山素行(監修)『救援物資輸送の地理学』株式会社ナカニシヤ出版
鍵屋一『図解 よくわかる自治体の防災・危機管理のしくみ』学陽書房
松尾一郎・CeMIタイムライン研究所『タイムライン 日本の防災対策が変わる』講談社

ホリフトウォーターのカタログはこちらからすぐにダウンロードできます。

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